著者のベノワ・マンデルブロ博士は、米エール大学名誉教授で、「フラクタル幾何学」というものを考案、自然界や金融商品等の様々な分野に応用したことで高い名声を得られています。
「フラクタル」とは、細かい部分に分解しても、その部分一つひとつがまた全体と同じ形をしていることを指します。例えば、海岸線、木の枝、カリフラワーなどです。とにかく複雑なものには何にでも応用出来るというものですが、博士は為替相場や株式相場のチャートにも応用したのです。そして、まさに複雑な動きをする相場を、膨大な実際のデータに基づいて解析し、そのリスクを計る方法を生み出すという偉大な功績を残されています。
さて、今回の著書は、フラクタルを始め、博士の主張する基本概念を、図やグラフを多用して平易に教えてくれています。しかも、注目すべきは、博士が、書の中で、世の中で常識とされている金融工学の弱点を真正面から指摘した上で、特に米国でサブプライムローンが時代の寵児としてもてはやされていた最中に出版したことです。しかも、博士は、今回の世界的な金融危機を発生する前から必ず訪れると主張していたことです。
ところで、私達、市場関係者にとって意味深なことを博士は発言しています。それは、「フラクタル的観点は、理解すれば巨額の富を手にすることが出来る、というようなものではありません。しかし、高い確率で起こる相場の暴落により、巨額の損失を被ることを避けるためには、市場をフラクタルの観点から見るのが最も良い方法です」と。
さらに、「価格の予測は不可能と言ってもいいでしょう。」とまで主張しています。この辺りは、相場予測方法の確立と投資家への伝授をライフワークとする私にとっては、深く考えさせられる部分ではありますが、それを差し引いても、皆様がご一読されるには充分に価値のある一冊であると確信しています。