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フィスコ投資ニュース配信日時: 2025/03/26 12:04, 提供元: フィスコ ケイファーマ Research Memo(4):脊髄損傷対象のiPS細胞による臨床研究で運動機能改善を確認*12:04JST ケイファーマ Research Memo(4):脊髄損傷対象のiPS細胞による臨床研究で運動機能改善を確認■ケイファーマ<4896>の開発パイプラインの動向 2. 再生医療事業 再生医療事業では5本の開発パイプラインがあり、このうち最も先行しているのが亜急性期の脊髄損傷を対象とした「KP8011」だ。岡野氏と中村氏が25年の間研究を続けてきたテーマで、2025年3月21日付で医師主導臨床研究の結果が、共同研究先である慶應義塾大学医学部などから発表された。 (1) 亜急性期脊髄損傷 これまでは脊髄損傷によって完全麻痺となった場合は有効な治療法がなかったが、同社は再生医療技術によって四肢機能の回復を目指している。他家iPS細胞から分化誘導した神経前駆細胞「KP8011」を、患者の疾患部に注射投与することで神経組織の再生を促し、四肢機能の回復する効果が期待されている。 脊髄損傷は、背骨を通る神経の束である脊髄が交通事故やスポーツなどでダメージを受け、切断されることで発症する。事故直後を急性期、2〜4週間を亜急性期、4週間以降を慢性期脊髄損傷と呼び、同社では最も効果が期待できる亜急性期を対象に研究開発を進めてきた。急性期では事故直後に周辺組織が炎症を起こしており、神経前駆細胞を移植しても定着しにくい。また、慢性期では脊髄に空洞化やグリア瘢痕が生じ、軸索の伸長を阻害するため、治療効果が期待しづらくなる。 同社の治療法の特徴は以下の3点にまとめられる。 a) 比較的少ない細胞量の移植で可能 再生医療で細胞移植治療を行う場合、移植に必要な細胞の個数は数千万個以上程度だが、脊髄損傷では200万個程度と少ない細胞量で治療が可能なため、コストを抑えられるうえ、品質も安定させやすい。また、腫瘍化リスクも極めて低くなるというメリットがある。 b) 効果の発揮 iPS細胞による神経回路回復のメカニズムとして、(1) 既存の神経に対して栄養因子を分泌することで保護作用が働き、(2) 神経細胞が神経線維に分化し新たな神経回路を作る、(3) 神経細胞がオリゴデンドロサイトに分化し新たな髄鞘を形成して軸索を覆う等の効果が期待できる。 c) Notchシグナルの阻害剤を使用 慶應技術大学との独占的ライセンス契約により、腫瘍化リスクの回避や神経の軸索伸長を促進させる効果が期待できるNotchシグナル※阻害剤を使用している。 ※ 進化上保存された発生過程や幹細胞における細胞運命決定を調節する経路。 サル科のマーモセットを用いた脊髄損傷モデルの前臨床研究では、損傷部位に移植した「KP8011」が着実に生着し、運動機能の回復が行動面で確認された。この結果を受けて、慶應義塾大学では2020年12月から4例の臨床研究(移植後1年間の観察期間を設定)を実施し、2024年11月に最終被験者の組み入れが完了、2025年3月21日付で臨床研究成果を発表した。具体的には、4症例すべてで安全性が確認され有効性についても、2例で運動機能の改善が認められた。iPS細胞治療で運動機能の改善が確認されたのは、同社によれば世界でも初のケースとなる。脊髄損傷の重症度を評価する判断基準としているASIA Impairment Scale(以下、AIS)※1では、1症例でベースラインのAからCに改善(自ら食事を摂取)、別の1症例でAからDに改善(歩行練習開始)が認められたとしている。総合せき損センターのデータベースを解析した数値では、AISでAからC以上に改善した割合は10〜12%と低く、症例数が少ないとはいえ今回の臨床研究で50%の改善効果が確認された点は大きな成果と言える。また、国際的に脊髄損傷後の運動機能評価に用いられる評価法であるISNCSCI motor score※2でもベースラインから13点の改善(中央値)が認められたとしており、過去データベースの中央値(4〜7点程度)を大きく上回った。 ※1 AIS Aは運動・感覚とも完全に麻痺している状態、AIS Bは、運動は完全麻痺だが肛門周囲の知覚が残存している状態、AIS Cは障害レベル以下の運動機能がわずかに保たれている状態、AIS Dは障害レベル以下の運動機能が抗重力程度に保たれている状態を指す。 ※2 第5頚髄〜第1胸髄、及び第2腰髄〜1仙髄の神経が支配する主要筋群について、上下肢左右5ヶ所ずつ(合計20ヶ所)の筋力を0〜5点の6段階で評価し、全体で100点満点となる。 今回の結果を受けて、同社は第1/2相臨床試験開始に向けた準備(細胞選定、CRO/CDMO選定、PMDAとの事前相談準備など)を進める予定だ。医師主導の臨床研究では、亜急性期脊髄損傷の患者に対して「KP8011」を移植し、移植後3週間でリハビリセンターに転院した。1年間の観察期間中に神経症状やMRI検査を実施して有効性と安全性のデータを収集した。早ければ2026年頃に治験を開始し、条件付き承認制度を活用して製造販売承認申請を行って、2030年前後の上市を目指している。これまでの再生医療等製品においては、品質の均一性や症例数の少なさなどが課題として指摘されることが多く、治験プロトコルの設定方法によって治験期間などが変動する可能性がある。したがって、同社が想定しているスケジュールどおりに進まないことも考えられるが、脊髄損傷はアンメットメディカルニーズが非常に強い分野であるため、スムーズに進展することが期待される。 国内の患者数は年間5千人で、市場規模は750億円と推計※している。既に慶應義塾大学による臨床研究の結果を踏まえて、国内外の大手製薬企業を中心に事業開発活動も本格化させており、導出に向けて複数の企業と継続的な情報交換も行っている。海外での臨床試験などは国内のデータを援用しながら、単独ではなく大手製薬企業と共同で進める考えだ。 ※ 移植時に必要な再生医療等製品の薬価概算に、患者数を乗じて算出した数値。1人当たり1,500万円の薬価を想定している。 (2) 慢性期脊髄損傷 慢性期脊髄損傷を対象とした「KP8021」は現在、神経成長の促進をより強化するための遺伝子を導入したiPS細胞の作製に着手している。今後マウスやラットなどを使って研究を進めることにしているが、臨床試験までにはしばらく時間がかかる見通しだ。 (3) 慢性期脳梗塞 慢性期脳梗塞を対象とした開発プロジェクトについては、前臨床研究を大阪医療センターと共同で実施している。今後は企業治験に向けたiPS細胞の選定、細胞製造法の最適化、治験に向けた品質管理試験項目の整理、企業治験プロトコルの検討などに着手し、2020年代後半を目途に企業治験の開始を目指している。脳梗塞ではサンバイオ<4592>やヘリオス<4593>が間葉系幹細胞を用いた開発で先行しているが、同社はiPS細胞由来の神経幹細胞のほうがより高い効果が得られるものと認識しており、後発でもキャッチアップすることは可能と見ている。 (4) 慢性期脳出血、慢性期外傷性脳挫傷 慢性期脳出血及び慢性期外傷性脳挫傷を対象とした開発プロジェクトは、大阪医療センターでの研究実績を踏まえた慢性期脳梗塞からの適用拡大に向けた検討を開始している。 (執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲) 《HN》 記事一覧 |