携帯版 |
![]() |
![]() |
|
フィスコ投資ニュース配信日時: 2025/06/09 14:05, 提供元: フィスコ 坪田ラボ Research Memo(5):2025年3月期は国内外で4件のライセンス契約を締結(2)*14:05JST 坪田ラボ Research Memo(5):2025年3月期は国内外で4件のライセンス契約を締結(2)■坪田ラボ<4890>のパイプラインの動向 2. 医療機器 (1) TLG-001 近視進行抑制デバイス「TLG-001」は、メガネにバイオレット光の光源を装着し、能動的に1日3時間程度、眼にバイオレット光を照射することで網膜内層にある非視覚型光受容タンパク質「OPN5」の活性化を促し、血流改善によって脈絡膜厚を維持し、近視進行を抑制する効果が期待されている。 過去に近視の小児を対象に実施した探索的臨床試験(6ヶ月間)で安全性が確認されたほか、有効性についても6ヶ月後の検査において眼軸長の進展が対照群と比較して39.8%抑制された。調節麻痺下他覚的・自覚的屈折変化量においても、対照群と比べて79.9%抑制されるなど良好な結果を得たことから、2022年6月より検証的臨床試験を開始した。試験方法は、弱度近視(-1.5D〜-3.0D)を有する6〜12歳を対象に160人を被験機器群と対照機器群に均等に割り付け、それぞれ12ヶ月間毎日装用する。その後12ヶ月間は機器を装用せずに経過観察を行い、2年間で合計9回の検査を行う。主要評価項目は、治験機器装用開始から12ヶ月時点における調節麻痺下他覚的屈折値の変化量を測定し、対照機器群と比較する。また副次的評価項目として、治験機器装用開始1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月のそれぞれの時点における眼軸長や脈絡膜厚の変化量なども調べる。同社では探索的臨床試験において6ヶ月間の短期間で統計学的有意差を確認できたこと、近視は時間の経過とともに進行する傾向にあることから、今回の臨床試験ではさらに良質な結果が得られる可能性が高いと考えているようだ。 2023年10月に被験者の組み入れが完了しており、2025年10月には経過観察が終了する。その後データの収集・解析を行い、2026年春には臨床試験の結果を発表できる見通しだ。良好な結果を得られれば開発パートナーであるジンズホールディングスが医療機器としての製造販売承認申請を行い、2027年内にも国内で販売を開始できる可能性がある。小児の近視率上昇は社会問題化しており、近視が極度に進むと将来的に眼疾患リスクが高まるという統計データもあるだけに、販売が開始されれば国内外で普及していくものと期待される。近視保有者の人口割合は2050年に世界で50%まで上昇するとの予測もあり(2010年は28%)、社会的意義の大きい事業と言える。 2025年3月には中国のBYPTと中国、香港、マカオ、台湾におけるTLG-001に関するライセンス契約を締結した(契約金総額10.3億円、販売ロイヤリティ除く)。中国では近視保有率が日本や韓国並みに高く、政府も近視人口の抑制を目標として掲げていることから研究開発が活発に行われており、開発に成功すれば収益貢献度も大きいと予想される。 中国市場に関しては同社も重要市場の1つと位置付けており、2024年7月には眼科医療の中心都市である浙江省温州市のEye Valley※に日本企業として初めて事務所を開設した(当面は常駐社員を配置せず)。現地での情報収集を進めているほか、現地企業との研究や臨床体制の関係構築も視野に入れた取り組みを進めている。2025年3月期は中国製薬企業2社とライセンス契約を実現しており、事務所開設の効果が早速顕在化した格好だ。 ※ 2020年6月にオープンした世界初の目の健康科学、技術、人材、産業の複合施設。世界的な先進的リソースを結集して、目の健康産業の包括的な発展を促進し、技術研究開発、産業育成、学術交流、ハイエンドの医療サービス、イノベーション人材の集まりのための世界クラスのハブを構築している。現在、200社弱の企業が進出し、研究所も32社が展開している。 (2) TLG-005 同社は2021年に住友ファーマと脳疾患(うつ病、軽度認知障害、パーキンソン病)を対象とした「バイオレット光を用いた治療法の開発」がテーマの共同研究契約を締結し、それぞれの疾患について特定臨床研究を実施した。2024年7月9日付でパーキンソン病とうつ病に関する臨床研究の速報結果が発表された。パーキンソン病(被験者20人)については、主要評価項目である安全性に問題がなく、副次評価項目である有効性についても、パーキンソン病症状の評価テスト※において照射前と12週間後で比較した結果、一部の症状において改善効果を示唆する結果が得られたとしている。住友ファーマでは事業価値の算定が困難と判断し、2024年5月に独占的実施権を解消したことを発表した。 ※ 風景画像の中に人の顔や動物などの錯視が見えるかどうかを検査するテストで、幻視の代用尺度とする検査法。パーキンソン病患者において幻視の出現頻度が増加することが知られており、病状の把握や管理に役立つと期待されている。 また、うつ病(大うつ病性障害被験者70名)の臨床研究では、全症例で被験機器(バイオレット光照射)及び対照機器を用いた二重盲検比較試験を実施した。主要評価項目として機器の使用開始前から照射後までのMADRSスコア※の変化量を調べたところ、対照機器に対して被験機器は大幅な改善が確認され、安全性にも問題はなかった。ただ、住友ファーマでは経営戦略上の判断からうつ病についても独占的実施権の解消を決定した。 ※ うつ病の症状の評価に使用される一般的な尺度の1つで、臨床試験や臨床診療において、うつ病の重症度や治療効果を評価するために広く使用されている。 2025年2月に発表された軽度認知障害の特定臨床研究結果については、被験者42例が登録され安全性において問題がないことが確認された。また、有効性に関しては当初設定した主要な有効性指標において、統計的優位性を確認するには至らず、同社では同データを基にさらなる詳細な解析を進めることにしている。 (3) 新規パイプライン 新規パイプラインとして網膜色素変性症※を対象としたTLG-020、月経不順を対象としたTLG-021を追加している。 ※ 眼球の内側を覆っている網膜に異常をきたす遺伝性・進行性の希少疾患で、進行すれば失明するリスクもある。まだ有効な治療法が確立されておらず、日本では難病指定となっている。 このうち、TLG-020は慶應義塾大学医学部との共同研究により、バイオレット光による網膜色素変性症への新しい治療法の可能性を見出したもので、「網膜色素変性症に対する革新的医療機器の開発」が(公財)東京都中小企業振興公社より、令和5年度TOKYO戦略的イノベーション促進事業における助成事業として採択されたことを2024年3月に発表している(事業期間3年、助成金額80百万円)。同社では、助成金を活用して非臨床研究による有効性・安全性検証を実施し、現在は特定臨床研究開始のための準備を進めている段階にある。バイオレット光により網膜色素変性症の進行を既存の対処療法と比較して有意に抑制することが証明されれば、アンメットメディカルニーズの強い疾患だけに、国内外でライセンス契約が決まるものと期待される。 TLG-021は、「光照射による月経不順治療機器」が東京都中小企業振興公社による令和5年度女性のためのフェムテック開発支援・普及促進事業における助成事業として2024年3月に採択されたものとなる(事業期間2025年11月30日まで、助成金額20百万円)。同社は助成金を活用して新しい治療法での特定臨床研究を実施し、ヒトでの月経不順の有効性・安全性の確認を行うとともに、女性が生活のなかで用いやすいデザインの医療機器開発にも取り組む。バイオレット光の効果として、脳中枢を介してサーカディアンリズム※を改善する効果や、同改善によって月経不順の解消も期待される。臨床研究の結果は2026年3月期中に判明する見通しだ。 ※ 体内時計である約24時間周期のリズムを概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ぶ。 (執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲) 《HN》 記事一覧 |