人間の情報処理能力など、しょせん限られたものだ。だから、複雑な世界でうまく立ち回るには、物事を構造化して理解し、世界を小さくすることが重要である。膨大な情報から必要なものだけを残してノイズを排し、世界をできるだけ単純で不確実性の少ないものにするのだ。本書で著者が示す三種類のトレードと二つの仕掛けも、驚くほど単純だ。
ところで、しばらく前に、第一生命が発表した「大人になったらなりたいもの」の調査で、高校生男子の「なりたいもの」に「投資家」が9位にランクインした。それを受けた解説記事は、そうした若者の志向について否定的な論調だったが、私に言わせれば、これは当然の結果である。投資家やトレーダーは、日本に住みながらグローバル基準で稼ぐことのできる数少ない仕事の一つだからだ。一方、現代の日本で会社勤めをすれば、大した報酬も得られないまま滅私奉公を求められる。そんなことを若者に求めるほうがどうかしているのではないか。
最近、私は「ファンドマネジャーになりたい」という若者に会うと、「そんなことはやめておきなさい」と言うことにしている。組織に縛られながら他人の資金を運用して国内基準の報酬を受け取るのと、自分の資金を運用してグローバル基準で稼ぐのとでは、経済的には後者を選ばない理由がない。その差は歴然だ。
著者は、自分の主張や考え方が多数派とは異なり、したがって違和感を持たれたり批判されたりすることを承知で、成功だけでなく失敗や感情の揺れまで含めて、プロのトレードの実際を語っている。プロとアマチュアの間には大きな差があるように見えるが、案外その差は紙一重なのかもしれない。そして、その隔たりを乗り越えるために必要なものは他人より優れていることではなく、本書に書かれているような物事を捉える独自の視点と、それに基づいて一貫した行動を取ることなのだと思う。本書は、そのための現実的な道筋を示してくれるだろう。
2026年8月
まえがき
今、このページを読んでいるあなたはトレーダーか、トレーダーを目指しているか、単にトレードに興味があるのだろう。あなたがどの立場でも、どうなりたいと思っていても、トレーダーの多く、特に個人トレーダーが失敗することは多くの統計で明らかになっている。そして、その割合は驚くほど高い。
それなのに、なぜトレードを始めるのだろうか。お金を稼ぐためである。ただ、トレードで稼ぐことは単なる戦術以上の意味がある。こう考えてみてほしい。一年で一〇〇%のリターンを上げれば、ほとんどのヘッジファンドを打ち負かしたことになる。しかし、私が勧める初期投資額の二万五〇〇〇ドルで始めて資金が二倍になっても、その稼ぎはファストフードの店員より低い。しかも、彼らより多くの時間を費やしたかもしれない。
本書は、トレードに対する私独自の視点を紹介している。私はこれらのことを、これまでの経験と実際に行ってきたことや、個人トレーダーとプロのトレーダーとその間のすべてを実践して会得した。トレードでそれなりの金額を稼ぐためには、ほとんどの人が一生気づかないようなたくさんの要素がかかわっているのである。
本書は、デイトレードについて書いていく。私は、FXといろんな主要な指数と金をトレードしている。私が行っているスキャルピングやアベレージトレードは、ビットコインや個別株など動きのある市場ならば何にでも応用可能だが、私はそれらをトレードしていない。長期トレードもしないし、投資もしない。
本書では、私が訓練を受けたプロトレードの世界と、今私自身が行っている個人トレードの溝を埋めていく。そして、みんなが抱いているプロのトレーダーのイメージを払拭したいと思っている。
私はプロと個人の両方でトレードの経験がある。プロとしては、ロンドンで最大級のトレードフロア二カ所で働き、フロアトレーダーのリスク管理をしたあとは、フロア全体の管理もしていた。これらはFCA(金融行為監督機構)の規制の下で行っていた。さらには、何千人もの個人トレーダーを教育し、数百人のメンターもしていた。
ちなみに、ここで「フロア」というのは、電子トレードのフロアで、かつての立会場のことではない。
私は長年、自己資金でトレードしている。顧客の資金を運用した経験もある。トレードは、数秒、数分、数時間の間に一〜二五〇〇枚で行っている。比較的大きな口座で大金を稼いだことも、小口の口座で大金を稼いだこともあり、それをプロとして取引所経由でも、個人として個人向けのプラットフォームでも行ってきた。
私はこれらの経験から得た洞察と、私が考える個人的なトレードの資質である「痛みを受け入れる能力」を組み合わせてトレードしている。
具体的には、市場で超短期の痛みを受け入れる。時には、それを自分に強いる。私のトレードスタイルにおいて時間は非常に重要で、逆張りでスキャルピングを仕掛けるときに最も強い痛みを感じる。
逆張りスキャルピングが何か知らない人でも、トレード経験があればやった可能性が高い。そして、損失を被ったか、わずかしか利益が出なかったのだろう。なぜだろうか。それは、トレーダーを罠にかけるための非常に見つけやすいパターンだからだ。
私は、自分が常に市場や自分の感情と一体化して「禅の境地」に達したから、トレードの世界を完全に理解しているなどと言うつもりはない。それは私ではない。ただ、利益を上げるために市場とどうかかわるべきかは分かっている。私にも負けトレードはあるし、これまでたくさん負けているが、これはトレードの一部にすぎない。私もすべてのトレーダーと同様に、良いときもあれば悪いときもあったが、おそらくみんなよりも少し桁が大きかったかもしれない。
私は自分のことを理解している。最近では、トレードで利益を上げることのみに関心がある。これは自分が正しいと証明することとは違う。利益というのは、二分で一万ドルとか、二〜三時間で七万七〇〇〇ドルとか、一日で九万ドルといった金額のことである。
このような金額は信じられないという人がいることは理解している。
もちろん、こんな利益がいつも上がるわけではないが、私はトレードするときは一〇〇ドル単位ではなく、一〇〇〇ドル単位の利益を狙っている。それがプロである。市場に正しいチャンスが訪れれば、プロはそれをつかみに行く。そして、ある程度のサイズに達すると、それは単なるトレードにすぎなくなる。トレーダーにとってトレードサイズを大きくしていくのは非常に難しいが、一ピップスでもある程度の利益を上げるためには、そうするしかない。
ほとんどの人はプロのトレーダーにはなれない。そして、統計によれば、ほとんどの個人トレーダーは失敗する。
ただ、私はプロのトレーダーと個人トレーダーの間に、プロの個人トレーダーとでも呼べる領域があると考えている。
それが今の私で、私のトレードの仕方である。
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(ウィザードブックシリーズ384)
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