生ける伝説の投資家が明かすコーポレート・ガバナンス、成長し続ける会社の経営、経営者の資質、企業統治、会計・財務とは――。 「買った株には上がってもらいたい」というのは、一般の投資家の普通の心理だろう。よって、投資家は「上がる銘柄」を探そうとする。しかし、市場で付いた価格にはほとんど合理性はない。極論に言えば、「株価には意味はない」のだ。
そのことをベンジャミン・グレアムから教えられたバフェットは、企業の本来価値に基づいた「優れた企業」を探すことに徹底する。それは、「上がる株」を探すよりも簡単で、その企業価値は株価が上がる期間よりもかなりの継続性を持つからだ。
そこで、バフェットは本来の企業価値と現在の株価とを比較し、この二者がどのくらい離れているのかを計る「安全分析」を極める。
資産運用の世界では、さまざまなイベントが起こるたびにそのパフォーマンスは大きく上下してきた。時の試練を経ても、なおかつ着実かつ驚異のリターンを上げるバフェット(バークシャー・ハサウェイ)の投資・経営術のすべてが明らかになっている本書は、企業経営やビジネス、個人金融や投資に関心を持つ読者の方々には大いなる示唆と教訓と、そして震えをもたらすものになるだろう。
プロローグ――株主に関する企業原則
■第1章 コーポレートガバナンス(企業統治)
A.完全で公正な開示
B.取締役会と経営者
C.工場閉鎖の苦悩
D.社会契約
E.株主主体で行う企業の慈善事業
F.経営者報酬の正しい決め方
G.リスク、風評、監督
H.企業文化
■第2章 ファイナンスと投資
A.農場と不動産と株
B.ミスターマーケット
C.裁定取引
D.標準教義の正体を暴く
E.バリュー投資―冗長性
F.賢明な投資
G.「しけモク」と「組織由来の旧習」
H.人生と借財
■第3章 投資の選択肢
A.投資分野の調査
B.ジャンクボンドと短剣の命題
C.ゼロクーポン債券と目出し帽
D.優先株
E.金融派生商品
F.外国為替と株式
G.持ち家政策―実践と方針
■第4章 普通株
A.売買に関する問題点―取引コスト
B.正しい種類の投資家を引きつける
C.配当政策と自社株買い
D.株式分割と見えざる足
E.株主戦略
F.バークシャーの資本構成の改変
G.バークシャーの配当方針
■第5章 合併・買収
A.ひどい動機と高値
B.「思慮深い自社株買い」対「グリーンメール」
C.LBO
D.健全な買収政策
E.自分の企業を売るにあたって
F.最適な買い手
■第6章 評価と会計
A.イソップと非効率な藪の理論
B.内在価値、帳簿価格、市場価格
C.ルックスルー利益
D.経済的なのれんと会計上ののれん
E.株主利益とキャッシュフローの詭弁
F.オプション評価
■第7章 会計上のごまかし
A.風刺
B.基準の設定
C.ストックオプション
D.「リストラ」費用
E.年金の評価と退職者給付金
F.実現イベント
■第8章 税務
A.法人税負担の分配について
B.税制と投資哲学
■第9章 バークシャー五〇周年とその後
A.複合企業と継続性
B.マンガーが語る「バークシャーシステム」
C.メトセラの境地
用語集
本書は、ジョージワシントン大学のローレンス・カニンガム教授の著した“The Essays of Warren Buffett : Lessons for Corporate America, Fourth Edition”の邦訳である。カニンガム教授は、バークシャー・ハサウェイの年次報告書に記載された株主宛ての手紙から、経営学の観点で重要と思われるものを抜粋・整理することで、バフェットの理念や哲学を一般の読者に分かりやすく伝えたのである。
さて、『バフェットからの手紙』の邦訳が最初に出版されたのは実に17年近く前になる。その当時から私は本書の翻訳に参加しているが、今だから正直に言うと、恥ずかしながら昔はその良さがよく理解できなかった。バフェットが人とは違うゲームをしていることは分かったが、果たしてそれがどれだけの威力があるのかを認識するだけの裏づけが私のなかに存在せず、若いころのバフェットと同じく、企業組織はおおむね合理的に運営されているはずだと思い込んでいたからだ。本書の真価に気づき目が開かれたのは、依然として「組織由来の旧習」に縛られ非合理な経営を行う企業の数々を身をもって体験したあとのことである。(続きを読む)
本書の初版は、20年前にサミュエル&ロニー・ハイマン・センター・オン・コーポレート・ガバナンスの主催によってカルドゾ・ロースクールで行われたシンポジウムで最大の話題となったものである。このシンポジウムでは、数百人の学生が一堂に会し、さまざまな着想について二日間にわたる検討が行われた。約30人の著名な大学教授、投資家、経営者の活気ある議論が交わされ、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーも最前列に陣取ってすべての議論に加わった。
初版から20年、本書は広く知られるようになった。私は四つの大学において、講義やセミナーで本書を教科書として何度も使ってきた。他校でも、多くの教授が投資、財務、会計などの講義で採用している。一部の投資会社では、研修過程のなかで本書を専門職の社員や顧客に配布してきた。ありがたいことに、こうした学生や教師、ほかの利用者からは好意的な反響が寄せられており、本書に掲載された教訓が広く学ばれていることをうれしく感じている。
前版同様、本書でも初版の構成と哲学を維持するが、最近の「会長からの手紙」の抜粋を、50周年の回顧を含めて、追加している。すべての言葉は一つの織物として紡ぎあげられ、健全な企業と投資哲学についての完全で首尾一貫した物語として読まれるものである。すべての読者にとって役立つように、また、旧版の読者に今回の版で新たに加えられた部分が分かるように、巻末の構成表に本書の各部分が毎年の手紙のどの個所から抜粋されたものであるかを示している。本文中の脚注では手紙に抜粋された年次報告書の年を示している。また、本書では話の流れをさえぎらないため、抜粋した文章のなかで割愛した部分について省略記号やその他の記号によって示すことはしていない。
新たな版が必要となったのは、バフェットの健全なる企業運営と投資哲学の基本的な部分が変わったためではなく、バフェットの哲学を常に現代の出来事や企業運営環境に照らして明確に表現するためである。したがって、これを通用するものとして維持するための改訂は正当な作業なのである。
旧版の編集に際しては多くの人々の手を借りた。こうした人々への感謝は旧版でも述べてきたが、今一度、感謝を申し上げたい。特にバフェットには感謝する。彼の寛大な対応によってシンポジウムの開催が可能となっただけではなく、参加していただいたことで一層多様なものとなった。「会長からの手紙」の再構成と再出版を快く私に託していただけたことは大きな名誉である。また彼のパートナーであるチャーリー・マンガーにも改めて感謝する。マンガーは、一九九六年のシンポジウムに最前列の席で出席してくれただけではなく、パネリストの一人として参加するという急な依頼も快諾してくれた。そのうえ、彼の株主への手紙や50周年の回顧録を本書に掲載することも許可してくれた。
バークシャーの2011年株主総会でマンガーと話をしたとき、彼はシンポジウムから15年でバークシャーがどれほど変わったか、それでいてどれほど変わっていないかということを熱心に語っていた。かつてのバークシャーは投資信託に近い存在であり、資産の80%は少数株主として所有する普通株で、完全所有している会社は20%にすぎなかった。しかし今日、その割合は逆転しており、バークシャーはコングロマリットのようになっている。ただ、形態は変わっても、バークシャーと傘下の企業は当時も今も、共通の価値観で結ばれている。その価値観とは、バフェットが設定した気風であり、それが彼の株主への手紙に命を吹き込んでいる。初版発行から20年間、『バフェットからの手紙』を支持してくれた数多くの熱烈なファン、フォロワー、友人たちに感謝するとともに、これからの展開も楽しみにしている。
(ウィザードブックシリーズ239)
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