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諸般の理由から、株式の持ち合い構造が音をたてて崩壊している。 企業間で株式を持ち合うという安定株主工作は、1967年の(第一回目の)資本自由化を前に、外国資本の脅威を囲い込むために活発化した経緯がある。また、日本特有の「メーン・バンク」制度や硬直的な資金調達フレームは、この構造の中心に金融機関を据えることで、強固な形を作っていった。 そして今、バブルの処理や保有資産の益出しが、証券市場で「売り圧力」となって顕著化している。皮肉とも思えるのは、持ち合いを解消する局面では、外人投資家の動向が注目されていることである。 そして、外人だけではなく、個人投資家も、持ち合い解消の「受け皿」として期待されている。盛んに行われる株式分割、104銘柄(2000年8月1日付)におよぶ最低取引単位の引き下げ…、個人投資家には、新しい安定株主としての役割が期待されているのである。
新規の参入も乏しく、横並び意識の強かった日本の証券界が、この変化に右往左往していることは周知の事実となっている。流動する顧客ベースは、1999年10月の委託手数料完全自由化もあり、証券界の構図を大きく塗り替えている。そして、インターネット取引や98年12月の証券取引法改正に伴うECN(電子私設市場)への可能性が、革命的な渦で日本の証券界を呑み込んでいる。 「数年後に、東京証券取引所は姿を消し、委託手数料は限りなくゼロになる」、その時、証券会社はどう生き残っていくのか?革命的な時代の、命題である。
大下英治・著「松井証券のIT革命」は、新しい時代の証券会社の定義を示唆する一冊である。証券門外漢の松井道夫・社長が、歩合セールスに依存していた松井証券を、ネット時代に対応したビジネスに変革させ、再構築する話しである。 マスコミでも有名な松井氏の人間的魅力がベースとなっているが、実は、(証券会社という)ビジネスの本質を赤裸々に議論した本となっている。成熟していればいるほど、(顧客本位など)その本質は見失われがちとなり、ルティーンこそがビジネスになっていく。この辺は、官僚を批判する時のロジックと似ている。ただ、官僚には明日が保証されているのに対して、証券会社(ビジネス)に明日への保証はない。さらに、明日を描けなければ、そのビジネスに明日が訪れることはない。 証券業の明日を描こうとする松井氏の真摯な態度が、ビジネスというものの儚さ・大胆さを再認識させてくれる一冊となっている。
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